虫ケア用品の知見と実績を活かし“感染症トータルケアカンパニー”へと進化【週刊ダイヤモンドMI連動】
ごきぶりホイホイやアースノーマット、モンダミン、バスロマンなど、誰もが知る大ヒット商品を数多く手掛けてきたアース製薬。〝お客様目線〞を突き詰め、買う時と使った時、その「二度の感動」を生み出すことに細部までこだわることで、ロングセラーとしての根強い商品を作り出してきた。
近年はバスクリンや白元のM&Aなどによる事業シナジーの拡大や、タイ・ベトナム・中国などの海外事業の急成長、さらに収益構造の改革、ニューノーマルによる巣ごもり需要の拡大も相まって、前期は過去最高の売上と利益を達成する。
2021年からは新中期経営計画がスタート。革新的な酸化制御技術「MA-T」を軸にオープンイノベーションの展開に注力するほか、虫ケアの枠を超えた〝感染症トータルケアカンパニー〞への取り組みを加速する。
(週刊ダイヤモンド2021/6/26号P.76「マンスリーインフォメーション」より転載)
アース製薬の強さをキーワードで読み解く ~取材こぼれ話~
大切なのはお客さま目線。「二度の感動」がロングセラーを生む
日頃から私が口酸っぱく言い続けているのが、お客さま目線の大事さです。害虫の発生状況、インフラやライフラインを含めた家庭環境の状況など、社会はその都度変化しています。そういう状況下で、お客様が何に困っているのかしっかり向き合っていく。害虫のことだけを考えるのではなく、社会や家族構成などまで考えていく。そこが重要なポイントになります。
アース製薬が大切にしてきた考え方に、「二度の感動」という言葉があります。一度目は買ってみたい、自分がこういうことをこの商品を通して悩み事を解決したいという欲求に基づくもの。そして二度目は、その商品を使った時に、もう一回使いたいと思う感動を得られるかどうか。
テレビCMを見て一度買ってみたけれど、「いまひとつだったな」と思うとお客さまはもう手に取りません。そうして商品は埋もれていく。当社の商品に関わらずロングセラーになりうるものは、その”二度目の感動”までがしっかりできているのではないでしょうか。
例えばごきぶりホイホイは、発売後まもなくいくつもの類似商品がありましたが、結局ごきぶりホイホイだけが残ってきた。でもその差は、ほんのちょっとしたこだわりなんです。例えば、入り口の坂の角度一度違うだけでごきぶりが入ってくるか来ないかが大きく変わる。
さらに言えば、研究過程や試験の段階ではできていたことでも、実社会においてはそれが思うようにならなかったりします。そのギャップを丁寧に埋めていくことができるか、それが一番大事なことなのではないかと考えています。
M&Aはあくまでも”縁”の中から生まれたシナジー
2012年にバスクリン、2014年に白元アースなど、M&Aには積極的に取り組んできたので、よくM&Aしている会社というイメージがあるかもしれませんが、M&Aありきの経営戦略は取っていません。まさに人と人の出会い、縁の中から生まれたものです。それらが積み重なって、上手にシナジーが生まれてきたといえるでしょう。
同様に、海外展開の積極さについても聞かれることが多いのですが、こちらは必然的な意味合いがあります。一つが人口の問題です。マーケットは人口に比例しますが、日本は着実に人口が減少しています。一方、海外では人口が増えている国が多くあり、そこには将来の成長性が期待できると考えています。
一方で、当社の事業のメインの虫ケアや感染症対策は、今地球規模で非常に有益であるとして、認知されてきています。そういう社会的な使命を考えても、日本だけにとどまらず、海外をやる意義を感じています。一本足より二本足の方がキレもよくなり安定しますよ。海外戦略はそういった私たちが目指すものに、当てはまっているのです。
2021年度から新規「中期経営計画」がスタート
2016年からスタートした5年間にわたる中期経営計画が終了し、本年度から3か年での新たな中期経営計画がスタートします。
前回のテーマは、海外展開の強化、グループシナジーの最大化、収益量の向上などを掲げていました。例えば収益力向上においては、返品削減の取り組みが進み、返品率が6割減、返品金額は大幅に減少しました。マーケティング費用の管理も見直し、額を減らしながらも効果を高める施策が順調に進んでいます。
今回の中期経営計画は、グループ全体のモノサシを再定義するという命題を掲げるととともに、アジア収益基盤の拡大、ESG・オープンイノベーション、コストシナジーの創出を3本の柱に、取り組みを進化させています。
その中の重要なキーワードの一つが、「オープンイノベーション」です。これからの時代は、1社ですべてを完結させるだけでなく、友好的なパートナーのネットワークを作り、みんなで一緒に市場をつくっていくことがテーマになってくるでしょう。
その軸の一つとして、「MA-T」という革新的な酸化制御技術に注力しています。MA-T活用のプラットフォーム「日本MA-T工業会」を設立したほか、産官学幅広い関係を構築し、MA-Tの普及と価値向上に取り組んでいます。
そしてこの「MA-T」の研究は、当社のさらなる可能性の入り口にもなっています。それが〝感染症トータルケアカンパニー〞という今後のビジョンです。昨年来のコロナ禍によって、社会はコロナというだけにとどまらないウイルスや感染症の脅威に注目し、新たな社会課題としてとらえるようになっています。
ウイルスや感染症は、虫が媒介することが多いですから、私たちが虫ケア事業で積み重ねてきた知見が活かせる分野です。これからもお客さま目線を大切にしながら、さらに大きなミッションを掲げ、グローバルな舞台で必要とされる技術や商品を提供し続けていきたいと考えています。
会社概要
アース製薬株式会社
代表取締役社長 CEO 川端 克宜 氏
設 立: 1925年8月(創業1892年)
資 本 金: 98億2,937万円
従業員数: 4,255名(連結)
売上高 : 1,960億円(2020年12月期連結)
東証一部(4985)
ホームページ https://corp.earth.jp/jp/