多彩なキャラクターを生かしたテーマパークを軸にデジタル融合も促進【週刊ダイヤモンドMI連動】
ハローキティ、マイメロディ、シナモロールなど、サンリオの魅力的なキャラクターを生かしたテーマパークを東京都多摩市(サンリオピューロランド)、大分県日出町(ハーモニーランド)で経営。「日本発。〝Kawaiiエンターテイメント〞をつくり、発信する」をミッションに、ライブショー・アトラクション・グッズ・フードなど、多彩なコンテンツを提供するとともに、ライブキャラクターの制作・演出や、国内・海外イベントの企画・運営、SDGsをテーマにしたイベントなどにも注力する。直近では、リアルとデジタルの融合を促進するとともに、テーマパークという空間や発信力を生かしたBtoB向けのプロデュース事業も拡大中だ。「来場者4倍のV字回復!サンリオピューロランドの人づくり」がダイヤモンド社から発刊。
(週刊ダイヤモンド2021/7/31号P.28「マンスリーインフォメーション」より転載)
サンリオエンターテイメントの強さをキーワードで読み解く ~取材こぼれ話~
創業時からぶれない「みんな仲良く」という理念
サンリオの創業者である辻󠄀信太郎は、若いころの戦争体験から「戦争はどうしてもやめないといけない。そのためにはみんなが仲良く助け合っていきていくことに貢献したい」という強い思いを常に持った方で、それが事業の根幹となる理念となっています。
1990年に開業した「サンリオピューロランド」も、そういった気持ちの表れとして生まれたものの一つです。「これからはモノからコトの時代になるはず」と、魅力的で楽しい体験ができる場所をつくろうと考えたのです。
「ピューロ」という言葉は、ピュアとピエロの言葉を掛け合わせたものです。実は最初の構想は、今のようなキャラクター中心のパークではありませんでした。「ピューロがいちごの王さま・キングハッピーの下でみんなで仲良く生きるの夢の国」といったストーリーで設計されていたと聞いています。
しかし工事が始まった時、「ハローキティのおうちができるんだ」という子どもの反響や期待が大きくて、やはりキャラクターを生かす方針に舵を切ることになったのです。
オープン時は、全国初の屋内型テーマパークだったこと、座席が動き、風が出て、匂いも発生するなどの3D映画の先駆け的な設備もあって、非常に話題になりました。ただ屋内施設としての制約から事前のチケット購入が必要で、「気軽にふらっといけない」ことが仇になり、1年半経過したくらいから少しずつ低迷しはじめました。その後ハローキティブームなど何度かいい波はあったものの、いずれも一過性で厳しい時代が長びいたのです。
ただその中でも、辻社長の「サンリオピューロランドだけは手放してはいけない」という想いは揺らぐことなく、それが今の盛り上がりをもたらした大きな基盤になっています。
「優しく話す」「温かく聞く」。すべては社内の対話から
ダイヤモンド社さんから「来場者4倍のV字回復!サンリオピューロランドの人づくり」という書籍を発刊していただいたように、コロナ禍を迎えるまでは、当社は非常に良い形で業績は伸長し、多くのメディアからも注目されるようになりました。
私がサンリオピューロランドの仕事に関わるようになったのは、2014年からです。その時に感じたのは何よりも「もったいないな」ということ。スタッフの皆さんは、みな夢を持って入社し、頑張っている。世界的なキャラクターもたくさんある。でも空間もキャラクターも全て、昔のまま時間が止まっているように感じたのです。だからこそもっと時代をみて、自分たちを知って、改善に取り組めば、必ず復活できるのではないかと手ごたえのようなものは感じました。
まず注力したのは、働いている社員やスタッフの方の話を聞くこと。ここで大切にしたのが、「優しく話す」「温かく聞く」という姿勢です。私は大学院で教育学研究科に所属し、コーチングの訓練なども受けました。そこで学んだ「聞く」ことの重要さを意識しながら、丁寧に対話を重ねてきました。
そして一人ひとりに、一年間の数値的な目標と成長の視点で目標を設定してもらいました。向かっていく方向は同じ「みんなを笑顔にしていくこと」。仕事の面では、「一人ひとりが成長すること」をテーマに掲げています。
一方、サンリオピューロランドの営業面では「オトナ女子」を取り込んでいくことにしました。これまでの「子どもが遊ぶ場所」というイメージを変え、例えば2.5次元ミュージカルや「KAWAII KABUKI~ハローキティ一座の物語~」など、大人が見ても楽しいコンテンツを充実させ、絶えず新しい話題を提供することで、リピーターを増やしていったのです。
また近年のSNSニーズに対応して、キャラクターを使った“映える”フードメニューを開発したり、大人も買いたくなるようなグッズ制作にも力を入れたりしてきました。
そしてもう一点、重視したポイントがバックヤードの整備です。赴任当時のトイレは、開館当時のままで古かったんです。トイレに行くたびに沈んだ気持ちになるほどで、このトイレで若い女の子たちに、ステージで笑顔になってもらうのは無理だなと痛感しました。
でも今は本当にきれいです。トイレだけではなく通路の床や壁も、床なんて鏡のようにキラキラ反射します笑。私自身も感動してるくらいですから、当社にお越しになったお客さまにも「いい会社だな」と伝わっているのではないかと期待しています。
こういった社内の変化とともに、業績も順調に回復していきました。2000年頃からずっと赤字続きでしたが、2015年度の途中から単月黒字が出始め、そこからは上昇一途。2018年度の来場者人数は290万人と、開業ブームの時期を超えて過去最高を記録しました。
リアルとデジタルの融合で、今までにできなかった価値を追求していく
しかしこのコロナ禍で、2020年2月から臨時休館を余儀なくされたことから、2019年度は過去最高の更新とはならず、それ以上にさまざまな面から、経営の見直しをせざるを得ない状況となりました。これまでの強みだった、屋内型テーマパークならではの”密な”賑わい感は、一転大きな弱点となるなど、根幹的な課題がいくつも出てきました。
たぶんコロナ禍が落ち着いても、完全には以前のように”密を楽しむ”という感覚は戻らない人が多いでしょう。いつかまた同じようなウイルス禍に巻き込まれるかもしれません。そのなかで、私たちは新しい楽しみ方を創出していく必要があります。
中心となっていくのは、やはりオンライン対応でしょうか。ショーの配信を始め、現在さまざまな試みをしているところです。ただデジタルに傾倒していくのではなく、リアルとの融合が重要です。やはりリアルの場の魅力や価値は大きいもので、リアルを補完するというより、リアルの価値を高めるデジタルでありたいと考えています。またそれによって、装置産業であり労働集約型だったテーマパークビジネスに、新たな可能性をもたらすことができるかもしれません。
これから力を入れていきたいと考えている一つが、BtoB向けのオンライン事業です。リアルの場でも行ってきたサンリオピューロランドを使ったプロモーションイベントを、バーチャル化・オンライン化を図ることでより付加価値の高いものにしていこうというものです。例えば商品のプロデュースであったり、ショー仕立てのライブコマースだったり、可能性はたくさんあるのではないでしょうか。
そして私たちの企業価値をさらに高めていくために、SDGsをはじめとする社会課題解決や、教育分野にも注力しています。また個人的には、音楽領域でも実績を出していきたいなと。ぜひヒット曲を世に出したい。それは長年心に秘めている悲願です笑
<掲載写真 © 2018, 2021 SANRIO CO., LTD. TOKYO, JAPAN © 2018 SANRIO/SHOCHIKU 著作 株式会社サンリオ>
会社概要
株式会社サンリオエンターテイメント
代表取締役社長 小巻 亜矢 氏
設立 2009年7月
資本金 1億円
社員数 350名(アルバイト・出演者除く)
年商:95億2千万円(2020年3月期)