マグネシウム合金の加工に特化し、軽さ・薄さ・小型化のニーズに応える【週刊ダイヤモンドMI連動】
アルミニウムよりも軽く、薄肉化しやすく、比熱が小さい。これらのマグネシウムの特性を引き出し、生産現場で求められる軽さ・薄さ・小型化のニーズに対応する製品を幅広く提供。大阪・静岡・中国・タイ・マレーシアに生産拠点を構え、創業から受け継いできたダイキャスト技術を核に、鋳造・トリミング、仕上・機械加工から、化成処理、塗装、最終検査までワンストップで対応できる体制を強みとする。
ノート型パソコン向けの筐体の生産で注目を集め、デジタルカメラ、プロジェクターなどで伸長。近年は、自動車向けに製品の幅を広げている。技術力や安全管理体制はもちろん、競争優位性が発揮できる市場の開拓や、マーケティング力の高さも大きな武器だ。現在は、グループ企業の相乗を図りながら、さらなるグローバル展開に注力している
(週刊ダイヤモンド2021/8/28号P.65「マンスリーインフォメーション」より転載)
株式会社STGの強さをキーワードで読み解く ~取材こぼれ話~
「閉塞感を打破し、もっと夢のある仕事を」とマグネシウム合金の領域に参入
株式会社STGは、1975年に創業した大阪の小さな町工場を原点とする会社です。当初は、アルミニウム表面加工、バリ取りなどを手掛け、その後ダイキャスト技術を軸としたモノづくり企業として歩んできました。
しかし90年代に入ると、海外企業との価格競争が激化していき、経営的にも厳しくなっていきます。そんな時に大手パソコンメーカーから持ち掛けられたのが、マグネシウム合金を用いたノートパソコン用筐体製造のお話しでした。
当社としては、目の前の閉塞感を打ち破るためにも、また「夢のある面白いことをしたい」というかねてから抱いていた願望にも合致したこともあり、先代の社長と相談の上、この新分野に乗り出すことにしたのです。1997年のことになります。
マグネシウム合金の良さは、まず”軽い”ということが挙げられます。当時主力だったアルミニウムの比重よりも2/3ほど軽く、さらに「流動性が良く、薄肉化し易い」「比熱が小さい(熱しやすく冷めやすい)」などの特徴から、近年の製造現場で求められる、軽さ・薄さ・小型化などの幅広いニーズに対応した部品成型を行うことができるものです。
一方で、加工上の大きなリスクも持っています。それが粉塵の問題です。マグネシウム合金の粉塵は火薬のようなもので、絶えず爆発の危険と隣り合わせです。実際に社内でも小さな爆発事故が起きたこともありました。しかし私たちは1998年に独自の湿式粉塵気を開発することで、安全な加工を実現できるようになったのです。
次なる転機は、マグネシウム合金の1次加工を手掛けるようになったことです。実は当初は、私たちは2次加工のみを手掛けていました。しかし2010年、委託先であった株式会社TOSEIの窮地を支援するべくM&Aを行ったことで、1次加工から2次加工までの一貫生産が可能になったのです。
これを機に事業の幅は大きく広がりました。そして翌年のタイ進出を皮切りにグローバル展開に力を入れ始めたほか、上場を目指そうという動きも本格化していったのです。
自分たちの技術は、どのマーケットで活かされそうか。その着眼力や提案力が強み
ノート型パソコン向けの筐体の生産で始まった、当社のマグネシウム合金加工は着実に領域を拡大してきています。例えばデジタルカメラやプロジェクターなどの筐体部分、携帯電話液晶ホルダーなど。最近伸びているのは、電気自動車向けやドローン向けなどで、特に電気自動車向けは使用箇所が非常に多く、大きな市場が期待されます。
また新しい技術として、樹脂とマグネシウムの一体成型があります。マグネシウムの良さを生かしつつ、例えば電波を遮断しないように部分的に樹脂を接合するなど、それぞれの長所や弱点を補完し合うものです。私たちが先行する技術であり、より多くの可能性を広げていきたいと思っています。
当社の経営の特徴として、一貫体制による総合力や個々の技術力といった強さももちろんあるのですが、それ以上に大きいのが「マーケットがどこにあるか」「自分たちの技術は、どのマーケットで活かされそうか」、その着眼力や提案力に優れていることだと思っています。そのためにも重要なのがスピード感。アイデアから企画、開発、製作まで、どれだけ迅速に動けるか、その意識の大事さを社内でも強く共有しています。
グローバル展開においては、アジアを中心に生産拠点を広げており、経営の中心を海外に置くことも考えています。そしてホールディング化を進めていくために、それぞれの地域の会社を引っ張るリーダーを多数育てていくことも大きなテーマの一つです。
今回のコロナ禍は、一部の業界で生産現場が停まったり、海外の拠点都市のロックダウンの影響などから厳しい面もありますが、ただ長いスパンで考えれば大きなチャンスだと思っています。海外法人お想定より大幅に安くM&Aできたり、新たな設備投資を合弁で始めたり、積極的な挑戦は変わらず続けていく予定です。
一方で全く新しい領域として、BtoC向けの事業部を作り、マグネシウム合金を用いたマスクホルダーなどの開発も始めました。ちょうど「脱プラ」も大きなテーマになっており、「プラスチックのものをマグネシウム合金で置き換えたら、どんなものになるだろうか」その試みとして始めたものです。まだまだマグネシウム合金の領域では未知の部分がたくさんあるはずで、業界の第一人者としてその可能性を一つひとつ探って、しっかり具現化していきたいと考えています。
会社概要
株式会社STG 代表取締役社長 佐藤 輝明 氏
設 立:1982年6月(創業1975年)
資本金:1億9,506万円
社員数:約800名(海外拠点含む)
年 商:24億4600万円(2020年3月期)