【専門家コラム】緊急事態宣言と休業手当~求められる企業の対応とは?!~
LM法律事務所の高木洋平先生から、「緊急事態宣言と休業手当~求められる企業の対応とは?!~」と題したコラムを事務局あてにご提供いただきましたので、こちらで紹介させていただきます。
緊急事態宣言と休業手当~求められる企業の対応とは?!~
令和2年4月7日、緊急事態宣言が発出され、東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県において、緊急事態措置を実施すべきものとされました。以下では、緊急事態宣言下で休業をした場合に、使用者が休業手当を支給すべきか否かについての考え方をご説明します。
1 休業手当とは
はじめに知識の確認ですが、労働基準法(以下「労基法」といいます。)26条によれば、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業の場合、使用者は平均賃金の60%以上の手当を支払う義務があるとされており、この手当を「休業手当」といいます。
2 緊急事態宣言下における休業手当支給の要否
(1)厚生労働省の見解
では、緊急事態宣言を受けて使用者が事業を休業することは、「使用者の責めに帰すべき事由」による休業といえるのでしょうか。
厚生労働省の「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年4月10日時点版」では、次のとおり説明されています。
<新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けた事業の休止に伴う休業>
問7 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請・指示を受けて事業を休止する場合、労働基準法の休業手当の取扱はどうなるでしょうか。
労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。不可抗力による休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありませんが、不可抗力による休業と言えるためには、
① その原因が事業の外部より発生した事故であること
② 事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること
という要素をいずれも満たす必要があります。
①に該当するものとしては、例えば、今回の新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請などのように、事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因が挙げられます。
②に該当するには、使用者として休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていると言える必要があります。具体的な努力を尽くしたと言えるか否かは、
例えば、
・ 自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分に検討しているか
・ 労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず休業させていないか
といった事情から判断されます。
したがって、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請や指示を受けて事業を休止し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。
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上記のとおり、不可抗力による休業と言えるためには、「事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因」が必要であるとされています。
そして、「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や要請」もその一要素になると説明されていますが、ここでいう「緊急事態宣言や要請など」による休業が不可抗力による休業といえるかどうかは、その宣言や要請の具体的な内容(たとえば、制裁を伴わない事実上の要請に過ぎない場合はどうかなど)によって異なってきます。
さらに、仮に事業運営を困難にする要因が認められたとしても、自宅勤務の実施や他の業務への配転など、休業回避の努力を最大限尽くしているかどうかもポイントとなります。
職種限定で接客業に従事している労働者については、休業を回避するためにできることは少ないかもしれませんが、総合職や内勤の労働者については、業務の性質上、自宅勤務が可能な場合も想定できます。
厚生労働省の見解では、そのような場合に、安易に休業にしたとしても、休業手当の支払義務を免れることはできないと考えられますので、使用者としては自宅勤務の可否等について検討が必要になります。
(2)緊急事態宣言と緊急事態措置
ところで、「緊急事態宣言」という言葉が独り歩きしている印象もありますが、住民や事業主に求められる具体的な要請等の内容は緊急事態宣言そのものではなく、都道府県知事が行う緊急事態措置によって定められることとされています。
たとえば、東京都は、令和2年4月10日、次の対応をとることとしました。
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(1)都民向け:徹底した外出自粛の要請(令和2年4月7日~5月6日)
新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条第1項に基づき、医療機関への通院、食料の買い出し、職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請
(2)事業者向け:施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(令和2年4月11日~5月6日)
特措法第24条第9項に基づき、施設管理者もしくはイベント主催者に対し、施設の使用停止もしくは催物の開催の停止を要請。これに当てはまらない施設についても、特措法によらない施設の使用停止の協力を依頼
屋内外を問わず、複数の者が参加し、密集状態等が発生する恐れのあるイベント、パーティ等の開催についても、自粛を要請
【出典:「新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急措置等」】
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このうち都民向けの外出自粛の要請は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」といいます。)45条1項に基づく緊急事態措置です。
他方、事業者向けの施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(東京都によれば、これは休業要請とのこと。)は、特措法24条9項に基づくもので、これに応じるか否かは各事業者の自主的な判断によります(特措法45条1項に基づく緊急事態措置による休業要請に反した場合は、休業の指示がなされますが、特措法24条9項に基づく休業要請に反しても、制裁がありません。)。
そのため、東京都の実施した休業要請のみを根拠として休業したとしても、それは自主的な休業であり、上記QAの①「事業の外部において発生した、事業運営を困難にする要因」によるものではないとして、事業主は、休業手当を支払う必要があるものと考えられます。
3 おわりに
緊急事態宣言が発出されるまでは、
〇感染者を休ませた場合に休業手当の支給は必要か?
〇濃厚接触者の場合はどうか?
〇何も症状はないけれど、コロナウイルス流行地域から帰国した者を休ませた場合は
どうか?
〇派遣社員を休ませた場合の派遣料金は?
といった相談が多く寄せられました。
このような相談は、(特に都道府県知事が実施した休業要請の対象でない事業を営む使用者においては)引き続きあるでしょうが、今後は、緊急事態宣言を踏まえた相談も増えてくるでしょう。緊急事態宣言下における休業手当支給については、厚生労働省の見解を前提にしても、どのような場合に、休業回避の努力を最大限尽くしたといえるか(上記②)は、各労働者との労働契約の内容を踏まえた、個別具体的な判断が必要になります。
今後、緊急事態宣言の対象区域が広がる可能性もあるほか、愛知県のように、(令和2年4月13日現在)緊急事態宣言の対象区域ではないものの、県の判断で(特措法に基づくものではない)緊急事態宣言をして、緊急事態措置を実施するケースもあります。事業者の置かれた環境は様々であり一律の回答はありません。判断に悩むことがあれば、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。